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妄想酒場へようこそⅣ~海からの旅人 [お酒]

もう、この世にはいないあのひとと飲んでみたかった・・・そんな「妄想酒場」の今宵のサシ飲み相手は、ジャック・マイヨール[ぴかぴか(新しい)]フリーダイバーとしての偉大な記録だけではなく、海との、イルカとの関わりでも特別な存在だった。ホモ・デルフィナス(イルカ人間)として生きたひとなのに、自ら命を絶ったという知らせが報じられたのは、クリスマス直前のこと・・・。

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「ジャック・・・ここに、いたのね」・・・南十字星がはっきりわかるほど冴えわたった夜空。スポットライトのように月明りに照らされたそのひとは、波打ち際で静かに海を眺めていた。私は隣に腰を下ろす。砂浜に突き立てられたダークラムのボトル。唇に当てると柔らかな液体はその正体を現し、喉を焼きながら全身に広がっていく。

「逢って来たわ。イルカたちに。水槽の中じゃなくて、海に棲む彼らに」「そうか・・・見てただろ」「ええ、あの好奇心いっぱいのまなざしで覗き込んできた」「あの目・・・彼らは好き嫌いがはっきりしてるけど、決して人をジャッジすることはしない。人間の万物の霊長ヅラが笑えるぜ」「・・・でもね、水槽の中に閉じ込められたイルカも同じ目をしていたわよ。絶望的な状態で、どうしてあんなふうにいられるのか・・・」

彼はラムを含み、乱暴に口を拭うと吐き出すように言った。「俺は、絶望し続けることに耐えきれなかったけどな。愛する人でさえ幸せにできない、エゴイストだよ」「・・・誰より誇り高くて、センシティヴで魂の純度の高い男にとって、陸の上の世界はさぞかし生き辛かったでしょう・・・でもね、幸福は人にしてもらうものじゃなくて、自らがそう在るものよ。あなたがいるだけで、その愛する人は幸せだったんじゃないかな・・・」

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彼は返事をしなかった。イルカと初めて対峙した時の、言いようのない親しみ、懐かしさ。言語を共有しなくても、瞬時に心を開いてともに過ごしたひと時。そんなふうに私たちデルフィナスは、何も言わなくても想いを通わせながら潮騒に身を委ねていた。

ひとり突き進む人の孤高を代わることは誰にもできない。でも束の間、寄り添い、分かち合うことはできる。ひたすら深海を目指した人は、限界で何を見たのだろうか。「深淵を覗き込んだ時、深淵もまたこちらを覗き込んでいる」という言葉があるように、見る者の心を映し出し、時に人を驚かせる。

「ジャック、それじゃ私、行くわね」・・・誰もがそれぞれのミッションを持って生まれ、生涯かけてそれを見つけ、達成するのが人生なら、まだ私は何もしていない。日々の雑事で忘れかけていた情熱と夢見ることを海は思い出させてくれる。

海に還るまで、もうひとがんばりしてみるね。彼は、横顔で優しく微笑んでいた。

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こんな笑顔が引き出せるひとになれますように[るんるん]


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ひでぷに

マイヨールとGingerさんの二人の世界、妙にリアルに頭に浮かびます(^_^;)
価値観を共にする者同士って感じだからでしょうか...
う~ん、大人の世界(*´ー`*)

「幸福は人にしてもらうものじゃなくて、自らがそう在るもの」・・・確かにその通りですね!
いや~、勉強になります(・ω・フムフム)…
by ひでぷに (2015-07-17 22:31) 

のらん

・・・そういえば、絶望に耐えきれず自ら死を選ぶのは人間だけ?
やっぱり、それも傲慢のなせるワザ、なのかも(/_;)
ガラスのなかのイルカが、何を感じ、何を語るのか・・・
もしかしたらジャックは、その声を聞いたのかもしれないね。。

by のらん (2015-07-18 12:00) 

Ginger

ひでぷにさま、日本にもよく来ていたというジャック・マイヨール。お逢いしてみたかった、と思う反面、心に抱く姿のままでいいんだ、という気持ち。孤高の人の近くにいる人は大変なんでしょうね。。。
ま、私は妄想酒場のお気楽ポジションで今日も飲みますよ~(*^▽^*)ノハーイ
by Ginger (2015-07-18 16:31) 

Ginger

のらんさま、人間以外の生き物は死について全く違う認識だったりしてね。永遠の別れではないとか・・・。
ジャックはマリンランドのイルカとも完全に解りあっていたようです。テレパシーがありますからね。人間は退化しちゃってるだけで、本当は持ち得ている能力だと思うの(*-ω-)ウンウン♪
by Ginger (2015-07-18 16:35) 

momo

グラン・ブルー・・・・・でしたよね?
映画観た記憶が・・・・。
美しいブルーの世界。
読んでいて、脳裏を過ぎりました。
by momo (2015-07-19 20:25) 

Ginger

momoさま、自然の造形や色彩は本当に神の御業・・・理屈抜きで人の心を動かしますね~。美しい海がずっとそのままでありますように。
(-m-)” パンパン
by Ginger (2015-07-20 14:10) 

でんさん

与那国でお会いしたジャックは、飛行機の中で「プレイボーイはないの?」
と聞いてCAさんをからかってたり、島でもずっとお姉さんと一緒だったりで
お歳を召しても艶っぽいおじいちゃんだな~という印象でした(^^ゞ
グランブル―の世界とはまた違う、人間味を感じました。
きっとイルカさんにもラブをいっぱい放出してたのね(^-^)

by でんさん (2015-07-20 23:56) 

ねこじゃらん

私も昔、とある処のイルカさんとガラスごしに以心伝心。心が震えました。

でも、違うタイミングでは、全然相手してくれませんでしたwあれ、なんだったんだろうな〜^^

(因に好きな映画は、グラン・ブルーと、ベティ・ブルーですwww)
by ねこじゃらん (2015-07-21 00:12) 

Ginger

でんさん、孤高な人が時に見せるお茶目で寂しがり屋な部分、そのふり幅が大きいほどキュンときちゃいますね~。強いと思われているひとだからこそ、守ってあげたい~♪なんて、母性を刺激する種族がいるのよ~。ハア・・・(ため息(´Д`) =3 )
by Ginger (2015-07-21 13:08) 

Ginger

ねこじゃらんさま、何と!わたくしめも「ベティ・ブルー」人生の映画ベストに入ります!サントラも買っちゃった♪原作も読んじゃった。
友人からは「破滅的な愛の話が好きだね~」と言われたけれど、あまりにも美しくせつない映画であったと・・・。久々に観たくなった!

イルカさんはきっと人の心の状態を感じ取っているんじゃないかと思うんだけど、相手にしてくれなかった時は「大丈夫だよ!」って感じだったのかな~(≡^∇^≡)ニャハハ
by Ginger (2015-07-21 13:16) 

ミケシマ

碧い物語…
いまの季節にぴったりですね。
Gngerさんにとって師であり同志であるかのような方。。
今宵も素敵な物語をありがとう♡
by ミケシマ (2015-07-21 21:25) 

Ginger

ミケシマさま、ありがとうございます♪
能登に行った時の海の深い蒼に感動しました。湘南や千葉はもはや濁り水にしか見えない・・・。JMも海が汚れてくのが本当に辛かったみたい。いつもココロにこんな蒼を持っていたいものです(*´ェ`*)
by Ginger (2015-07-22 11:52) 

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